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次世代PHSの蹉跌 [携帯電話・WILLCOM]

シルバーウィーク初日に突然日経にすっぱ抜かれた話が、現実のものとなったので、やっぱり今日はこの話題に触れておきましょうか。

事業再生ADR手続利用のお知らせ (WILLCOM)

僕もこの辺の企業会計とか経営関連の法的手続きに関しては全くの素人なんで、聞きかじりの話になってしまいますが、要は

「返済期限の迫っている935億円が期限通りに返せない」→「そのまま放っておくと不渡りで、民事再生法とか会社更生法とかの法的整理(事実上の倒産)になってしまう」→「法的整理だと何事にも裁判所がからむので競争スピードが速い通信業界なのに経営判断が遅れたり、場合によってはPHSサービスそのものが停止してしまう可能性が出てくる」→「事業再生ADR(裁判外紛争解決手続)を使えば本業であるPHSサービスを継続しながら、金融機関との債務の調整を行うことが出来る」

ということのようです。

どっちにしても現段階で、WILLCOMが銀行から借りているお金が返せない苦しい状態にあること、そのことによって新規の投資が難しくなっていることは間違いなく、その影響をもろに受ける格好になったのがこれです。

「WILLCOM CORE XGP」のサービス開始について (WILLCOM)

2007年12月に「広帯域無線アクセスシステム(BWA)」として、UQ CommunicationsとWILLCOMに免許が割り当てられた2.5GHz帯を使うモバイル・ブロードバンドサービスは、UQが“モバイルWiMAX”、WILLCOMが“次世代PHS=XGP”を採用して、本格サービスインを目指していたわけですが、UQ WiMAXが当初計画を上回るスピードでの基地局設置を行うなど、比較的順調に事業を進めていったのに対し、もう一方のWILLCOM CORE XGPは試験サービスを始めたものの、エリアは山手線内の一部のみ、試験ユーザーはごく少数の法人とメディアだけという状態になるなど、前々から宣言していた2009年10月の本サービス開始が危ぶまれていました。

そして試験サービス終了予定日9月30日まであと6日に迫った今日、ようやく発表された本サービスは、惨憺たる内容でして、

image03.gif

・エリアは山手線内南半分のみ
・料金は月額4,380円+ISPサービス「PRIN」利用料月額945円=5,325円
・端末はNECインフロンティア製のPCカード型端末一種類のみ(期限付きレンタル)
・2年契約必須、解除料9,975円
・申し込めるのは現WILLCOMユーザーのうち23区内に在住の400人限定
・来年3月までは全て無料

という有様。

つまりは、本サービスを名乗ってはいるものの実質的には試験サービスの延長で、それが来年3月まで全て無料となっていることから、「今後半年はとてもお客さんから利用料のとれる本サービスレベルに持って行けない」ということまで露呈してしまっているのです。

ADRの申請と同じ日に発表するなど、WILLCOMとしては「技術的な問題ではなく資金的な問題でこうなったのだ。お金さえあれば…」という想いなんでしょうが、免許審査前のカンファレンス資料や、電波監理審議会に実際に提出された計画書(WILLCOMは“A社”)を見る限りは、見通しがあまりに甘過ぎたんじゃないの?と言わざるをえません(たとえば電波監理審議会の審査資料で“C社”になっているUQが、2009年度末までに4,000局を設置する計画を提出、2009年8月22日の段階で3,067局開局と進捗率76.7%なのに対し、WILLCOMは2009年度末までに1,498局の計画で、同じ2009年8月22日の段階で251局開局と進捗率わずか16.8%でしかありません。前社長は3,000億ぐらいは借りられる、前倒しだって可能と豪語してたんですけどね。資金だってPHSの設備投資費をまわすだけでOKみたいな話になってるし…)

こうなってくると、僕が愛読する“ローマ人の物語”に出てくる作者塩野七生の言葉、『後世から見て裁く、という態度を最も嫌う』『成功も失敗も、そうそう簡単には定義出来ない』に反する行為ではありますが、やはり2年前の免許割り当て問題の時から個人的にずっと頭の中にあった、

「そもそもBWAに次世代PHSを推進したことが間違いなのでは?」

という疑問を改めてWILLCOMに問いたくなってしまいます。

 

この2.5GHz-BWAというシステムは、2006年頃から総務省で検討・審議されてきたもので、「都市部では携帯電話並みの広域をカバーし、3G携帯電話(HSDPA)より高速で、自動車走行程度の速度では途切れない、安価な無線アクセスシステムを構築しよう」というのが目標でした。

その後情報通信審議会でシステム要件が検討され、「モバイルWiMAX/i-Burst(京セラ)/IEEE802.20 MBTDD-Wideband(クアルコム)/次世代PHS(WILLCOM)」の4方式いずれかを採用した事業者に免許を割り当てる方針が決定。同時に3G携帯電話事業を行っている4キャリアには直接の参入を禁止、その4キャリアもしくは役員が1/3以上の議決権を持つ会社も参入禁止となったため、

KDDI-JR東日本-intel連合(モバイルWiMAX)/ソフトバンク-イーモバイル-ISP連合(モバイルWiMAX)/アッカ-ドコモ連合(モバイルWiMAX)/WILLCOM(次世代PHS)

の4社で2つの免許を争う「美人投票(by池田信夫センセー)」を行うこととなり、結果KDDI系のUQとWILLCOMに免許が下りたという経緯があります。

このようにBWAは、計画当初から“電話用”ではなく“無線データ通信専用”に使う帯域と考えられており、実際総務省の総合通信基盤局電波部移動通信課は、2007年5月の日経エレクトロニクスの取材に対し、

>総務省としては今回の2.5GHz帯のサービスは,オールIP(internet protocol)が前提で,言わばADSLの無線版という認識を持っている。電話サービスを提供する場合はIP電話の形態になる。ADSLで「050番号」から始まるIP電話サービスはすでに始まっているが,結果としてそれらが収益の柱になるほど伸びてはいない。電話番号の議論はまだこれからだが,ADSLの延長上で考えれば2.5GHz帯でのIP電話サービスには,050や060が割り当てられると考えるのが自然。少なくとも携帯電話用の「090番号」や一般固定電話用の番号が使えるようにはならないだろう。

と回答するなど、“電話用”として割り当てる帯域ではないことを明言していました。

こうなるとWILLCOMの「次世代PHS」という言葉もなんだか怪しくなってきます。

次世代PHSと言うぐらいですから、現行の1.9GHz帯PHSを丸ごと置き換えて、音声からデータまでこの2.5GHz帯システム一つで完結しそうなイメージを持ちますが、実際には総務省からIPではない普通の電話としての使用許可が下りない限り、「音声は現行PHS」「データは次世代PHS」と、WILLCOMは二つのシステムを協調させながら運用することになり、構想の中にあった「次世代PHSスマートフォン」を実現するとなると、現行PHSと次世代PHSのデュアル機にしないとスマート“フォン”にはならないという事になってしまいます。

しかも名前としてはPHSに近そうな技術に見える「次世代PHS」も、実際の電波技術的にはむしろモバイルWiMAXの方に近く、“モバイルWiMAXを「マイクロセル」「自律分散」などの現行PHSのような基地局設計で運用するもの”というのがその実態で、いくらアンテナやバックボーンが共用可能とは言え、全く異なる二つのシステムを常時協調運用し、端末も小型化が困難なデュアル機を次々と開発していかなくてはいけないなど、携帯電話各社に比べ事業規模が小さく、資本力に劣るWILLCOMにとって、この「次世代PHS構想」はおよそ負担の大きい無茶な構想だったのではないでしょうか。

 

現行PHSは、NTTの「コードレス電話をデジタル化して外にも持ち出せるようにしたら面白いかも」という着想に端を発して1995年7月に事業化されたもので、基本的な技術は第二世代携帯電話と同等レベルのものが用いられている、かなり使い古されたシステムです。

19日に日経にADR申請の話がすっぱ抜かれたときに、ジャーナリストの神尾寿氏がtwitterでつぶやいていましたが、WILLCOMの前の前の社長である八剱洋一郎氏は、当時まだイーモバイルのサービスイン前だったにもかかわらず、「AirHなどのPCデータ通信は、早晩高速化した携帯電話各社に対抗できなくなって顧客を奪われる」と、現行PHSが所詮は古いシステムであるという限界を鋭く見抜いていて、ウィルコムになってKDDIの軛から解放されたのも手伝ってか、就任直後からデータ通信ではなく音声定額による「気軽に使える電話」路線を推進し、加入者も大幅に増加しました。

それが何故か就任からわずか1年9ヶ月で八剱氏は副会長に事実上の更迭。後任の社長となった生え抜きの喜久川政樹氏は、同じく生え抜き役員である近氏・土橋氏らと共に熱狂的なPHS好きを自認し、「I=PHS」というキャッチフレーズを使うなど、特に古くからのPHSファン・DDIポケットファンに強い期待を抱かせました。

しかしこの「熱狂的PHS好き」というのが逆に仇となります。

経営者として冷静に現行PHSの限界を知っておくべきだったのに、すでに3G携帯電話に対して競争力を失いつつあったデータ通信分野を再び重視し始め、本来若いユーザーにもっと気軽な音声端末の着せ替えを楽しませたり、法人ユーザーに確実に動作する堅牢な音声端末を提供したりする方向に進むべきだったW-SIM構想を、WindowsMobile搭載スマートフォンを毎年投入したり、WILLCOM D4のような中途半端なMID端末の開発に費やしてしまうなど、数少ないWILLCOMの開発資源の「選択と集中」を誤ってしまったのです。

そして極めつけが明らかに現行PHS音声サービスとの整合性に問題がある、BWAシステムでの「次世代PHS」推進。

総務省の方針に従うとなれば、どっちみち現行PHSのネットワークは残さないと音声サービスは続けていけないのですから、現行PHSは音声定額とテレメトリングなどの小容量データ通信専用のネットワーク、新たに取得するBWA帯域は、「次世代PHS」というWILLCOMが自前で色々とやったうえで、現行PHSと協調しないといけないような孤立した規格ではなく、他社もやってるありモノの規格を採用することで、WILLCOMの負担を少なくして事業化する、独立した大容量データ通信専用ネットワークと完全に分けて考えて、双方を載せなくてはいけなくなってしまう次世代スマートフォン構想は、最初から放棄すべきだったのではないかと僕は思います。

 

今後WILLCOMのADR申請がどういう決着を見るのか、XGPというシステムがどこまで進んでいくのか、現行PHSが生き残ることが出来るのか、これらは全く予想がつきません。

ただ言えることは、僕はよほどのブレイクスルーが実現されない限り、WILLCOMに戻ることはもうないだろうということと、「恋は盲目」という言葉に表されるとおり、あまりに好きになってしまいすぎると、そのことに対する冷静なモノの判断が出来なくなるんだという教訓として、今回のWILLCOMの「事件」を記憶しておかなくてはいけないなと感じたということです。

最後にtwitterにも書きましたが、ユリウス・カエサルのこの言葉で今日のエントリーを終わりにしましょう。

-Fere libenter homines id quod volunt credunt (多くの人は、自分が見たいと欲することしか見ていない)


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コメント 2

Riever

なかなか興味深い記事、ためになります。

>「恋は盲目」という言葉に表されるとおり、あまりに好きになってしまいすぎると、
>そのことに対する冷静なモノの判断が出来なくなるんだという教訓
全くですね。私も"嵌りやすい人間"として是非覚えておかないとなと、考えさせられます。
by Riever (2009-09-25 08:21) 

かつぽん

この歴史上の人物の名言が散りばめられている辺り
すんごい説得力ですね、コレ。
PHS信者やマツケンに読ませてみたいモンです。
実際においらもWillcomからイーモバに移行しちゃいましたし、
こうなることはわかっていたはずなんですけどねぇ。。。
by かつぽん (2009-09-25 10:03) 

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