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スモールビジネス/ビッグビジネス [Sony・PlayStation]

日本時間2013年2月21日朝8時、アメリカ・ニューヨークでPlayStation Meetings 2013が開催され、SCEにとっては7年ぶりの家庭用ゲーム機となる「PlayStation4(PS4)」が発表されました。

 

logo_PS4.gif

 

ソニー・コンピュータエンタテインメント「プレイステーション 4」(PS4[トレードマーク])発表
~クラウド技術を活用したPlayStation[レジスタードトレードマーク]Networkとともに、高性能なシステムアーキテクチャー、ソーシャルとの融合、様々なコンテンツとの出会いがもたらす、豊かなゲーム体験~

ただし今回明らかにされたのは、基本コンセプト・大まかな仕様・コントローラーといった概要で、本体のデザインや価格、発売日はまだ未定という状態です。

実際生中継された発表会では、なにげにすごいハードウェアのグラフィック性能などもさらっと流す程度で、プレゼンテーションは「どんなコンセプトで作ったのか」「どんなゲームが出来るのか」といった「ユーザー体験」、そしてなんといってもゲームクリエーターがゲームを作りたくなるような、

「デベロッパーにとって魅力的なプラットフォーム」

という点が強くアピールされているものでした。ここらへんは久夛良木さんの夢を追いすぎて、プログラミングのしやすさ、ゲームの作りやすさが後回しにされたPS3の反省を踏まえたものといえるでしょう。

そしてその発表された“おおまかな仕様”というのが、

・CPU AMDのPC向け省電力x86プロセッサ「Jaguar」をベースに8コアにカスタマイズ
・GPU AMDのPC向けGPUをベースに、グラフィックだけでなく汎用的な演算デバイスとしても使えるように設計。演算性能1.84TFLOPS
・メモリ バンド幅最大176GB/sという高速転送が行えるGDDR5メモリ 8GB
・CPUとGPUは同じダイに載る1チップ構成で、メモリはCPU/GPUで共用
・BD/DVDドライブ&HDDあり

というもの。これは明らかに「パソコンに近い」部品構成です。

これを知った瞬間の正直な僕の感想は、

「ああ、SCEはビッグビジネスの舞台から降りて、スモールビジネスにモデルを完全に変えるんだな」 

でした。

 

任天堂のファミコンを元祖とする専用ゲーム機という市場は元来、

「同一のプラットフォームを安く大量に売って普及させることで回していく」=「ハイリスク・ハイリターンなビッグビジネス」

というのが王道。

1994年12月3日にPlayStationでこの市場に参入したSCEも、「いくぜ100万台!」などのキャチコピーを掲げて、まずは大量にハードウェアを売りさばき、その上で流通を変革したソフトウェアがそれまでより安価な設定で出回ることで人気を集め、それがハードのさらなる販売増をもたらす、という好循環を実現したことで、全世界1億台以上という一大コンピュータープラットフォームとなりました。

その成功を受けて2000年の3月4日に発売されたPlayStation2は、PS1以上の「ハイリスク・ハイリターン」なビジネスとなっていきます。

CPUなどの演算を担う中央部分は、MIPSをベースに「Emotion Engine+Graphics Synthesizer」というチップを東芝と独自開発。なんとその半導体の生産も『大分TSセミコンダクタ』という合弁企業を設立して、東芝大分工場内に専用ラインを保有するなど、“部品となる半導体チップの生産から、その応用ハード&プラットフォームの展開、さらにその上で動くソフトウェア・ゲームの開発まで全てを一貫してSCEが中心に行う”という超巨大ビジネスモデルが出来上がったのです。

これはもしコケたら大変なことになる賭けでしたが、久夛良木さんはこのハイリスクな賭けに見事に勝利しました。

PS1に続いてPS2も全世界での販売台数が1億5千万台を突破。それまで爆発的とはいえなかったDVD普及の後押しにもなるなど、10年以上にわたってSonyグループに売上と利益をもたらすビッグビジネスとなったのです。

このビジネスモデルが成功した一つの理由が「ムーアの法則」。

半導体に興味の有る方だったら誰もが知っているこのムーアの法則は、

「半導体の集積度は18~24ヶ月で倍増する」

というものですが、パソコン用チップが集積度が上がるたびに新しいアーキテクチャを出して、その集積度上昇を「処理能力向上」に使うのに対し、ゲーム機は一度プラットフォームが出来上がると6年~10年にわたって同一のアーキテクチャであり続けるので、集積度上昇は処理能力そのままでの「コストダウン」に繋がっていきます。

そして半導体を中心とした「生産コストの低下スピード」より「最終製品(ここではPS2)の販売価格低下スピード」のほうが遅いため、 その時間差によって最初はハードで利益が出なくても、売り続けるうちにハードも莫大な利益を生み出すようになってくるのです。

事実PS2発売から三年後、次のPS3のための2000億円にも及ぶ半導体設備投資を発表した会見で、久夛良木さんはこういう言葉を残しています。

「積極的な半導体投資はPS2のおかげ」(当時のITmediaNews)

PS2は発売3年にして、これだけのものをSonyグループにもたらしていたのです。

というようにPS2の勢いをかって、PS2以上の「超ハイリスク・超ハイリターン」を狙うことになるのが、2006年11月11日に発売されたPlayStation3。

PS3では垂直統合は更に推し進められ、CPUはPowerPCをベースに「CELL.B.E.」というチップをIBM/東芝と独自開発。生産はSonyの長崎工場内に持っていたSCEの工場棟(Fab2)に新たにラインを立ち上げ、“ゲーム機のために”当時世界最先端の半導体を自社で開発・生産する体制が作り上げられていきます。

そして光学ドライブもこれまたコストが嵩む当時最先端のBlu-ray Discを採用。

ここまでのリスクを背負っても、ゲーム機という「爆発的に売れる応用製品」があれば、生産数が増えてコストが低下し、時間の経過ととともに集積度上昇によるコスト減も加わるので、じきにSonyグループの各家電にも搭載できるレベルとなり、世界中にあふれたCELL B.E.が相互に繋がって新しいコンピュータ社会を…久夛良木さんの夢はそこまで膨らんでいました。

しかしこの賭けは事実上失敗に終わります。

PS3は売れこそしたもののその普及スピードは遅く、発売6年で7000万台というペースに終わり、コスト低下もゆっくりとしか進まず、「家電にもCELLを」は画餅に帰すことになります。

実際CELLを生産していたSCE保有の長崎Fabラインは、紆余曲折を経て現在はSonyの最先端CMOSセンサを製造するラインへと変わり、久夛良木さんはSCEを離れ、後継の平井さんはPS3を「高性能ゲーム機」として再定義して地味な戦略に転換し、事業全体で「莫大な赤字を生む」というのを避ける方向に軟着陸させたのです。

 

そんな中でPSPの後継として開発されたPS Vitaは、SCEの戦略転換を予感させるハード仕様で発売されます。

・CPUは完全な独自開発を諦め、スマートフォン/タブレット分野で標準としての地位を築きつつあるARMアーキテクチャを採用
・半導体の生産などには手を出さず、開発にのみ集中

SCEは既に巨大な賭け金を積めるような財務状態になく、また今まで通用した「ハイリスク・ハイリターン」路線がこのまま維持できないという判断もあったのでしょう。

そしてPS4。

CPUもGPUもさすがに「AMDが用意している出来合いのチップそのまま」ではないものの、X86というパソコン界で最もこなれたアーキテクチャを採用し、光学メディアも初めて前世代と同じ規格のものを搭載。「製品サイクルが長いのだから、発売から何年か後に開発者がピーク性能が絞り出せるぐらいのものでいい」という考えだったのが、「まず開発者が今開発しやすいもの」に変更されたわけです。

これは非常に安全で安定した手堅い手法ですが、この路線を採用することになった要因はもう一つ考えられます。

それがPS3からのこの7年で大きく変わった「スマートフォン・タブレットの爆発的普及」

昔は“同一アーキテクチャで1億台単位で売れるコンピュータ”はゲーム機ぐらいしかありませんでした。だからゲーム機のために多大な投資をする必要があったし、投資してもそれが回収できる見込みがあったのです。

しかし今ではスマートフォン・タブレットが年間1億台以上売れる時代(2012年のiPhone販売台数1億3500万台、iPad販売台数6500万台)。さらに大きいAndroid機市場も含めれば、ARMアーキテクチャの普及速度は爆発的なものとなっており、中国あたりにいけば簡単にARMを採用したチップ(SoC)を安く開発・生産してくれる新興SoCベンダーまで現れています。

その中でゲーム機のために独自の半導体チップを自分で開発し、自分達で多大な資産として保有している生産ラインで作ることがどれほどの利益になるか、PS2/PS3で実行されたビジネスモデルは、少なくとも今後ゲーム専用機では通用しないのではないか、そういう判断が働いたことは想像に難くありません。

 

今回のPS4の発表でグラフィックに凝った最新のアクションゲーム/FPS系のデモが多かったことから、各種メディア・評論家から「従来の路線と変わらない」「代わり映えしない」という論評がついているのが幾つか散見されますが、少なくとも“ビジネスモデルの組み方”という意味では、SCEはPS3までの路線を180度転換してきたと言えます。

その「ローリスク・ローリターン(あわよくばハイリターン)で小さなビジネス(スモールビジネス)を堅実に回す」という路線が、果たしてSonyグループにとって吉と出るか、凶と出るか、それはまだわかりません。

「PS3の互換はGaikaiの技術を使ったクラウドゲーミングでとる」
「携帯ゲーム機のようにプレイ中でもサスペンド/レジュームがいつでも可能、中止・再開が即時にできる」
「プレイ動画を簡単にシェアできる」
「タッチパッドとライトバー、奥行きまで検知できるPlayStationEye」
「高い技術・演算能力をユーザーの“心地良い”のために使うSimpleというキーワード」

他にも見どころはたくさんあるPS4ですが、僕は「新しいビジネスモデルがSonyのゲーム事業に何をもたらすか」に注目して、今後の情報を待ちたいと思います。

まぁ、でも、発売日に買うかな(笑)それぐらいの面白さに対する期待感は十分感じられます。


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